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こんな物がたいした武器になるとも思えないが
まだ中身が半分ほど残っているビール缶を握り締めて
日向子はそろそろと椅子から立ち上がった

「誰?!誰か居るの?!」
緊張のあまり声が変な風に裏返った

「はい?」
「えっ?」

小屋のドアがきぃっと開いて白衣の男が出て来た

「し、しのさん!やだ!脅かさないでよ!」
「すいません」
別段、悪びれた様子もなくそう言うと白衣の男――篠田は
ドアに鍵をかけるとくるりと振り向いた

「今まで研究してたの?」
「えぇ、まあ・・・」篠田はいつもの穏やかな半笑顔で答えると
今度は門に向かってすたすたと歩き出した
「ちょ、しのさん、ちょっと、ビール飲んでかない?」
日向子は篠田の背中に慌てて声を掛けた
篠田の足がぱた、と止まる
庭のライトが白衣の背中を真っ白に浮かび上がらせている
「じゃあ、お言葉に甘えて」くるりと振り向いた篠田は
今度は半笑顔ではなく全笑顔になっていた
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「半年になるんだよ、しのさん、信じられる?」
三缶目のビールを持った手を左右にゆっくり回しながら日向子が尋ねる
篠田は小屋の横の植え込みあたりに目を向けながら無言で首を振る
「おにいちゃんさぁ・・・生きてるのかな」
「さぁ・・・」
缶を唇に当てて逸らした篠田の喉が電灯に照らされて日向子はそれが
何となくセクシーだと思った
「大丈夫だと思いたいですけど、どうでしょう」
唇に残った水滴をぺろっと舐める舌がもっとセクシーに見えて
日向子は慌てて視線を逸らす
「うん・・・」

日向子の兄、陽が突然失踪してそろそろ半年になろうとしていた
庭に建てた小屋を「研究所」と呼んで毎日毎日何か新しい薬品を
研究開発していた陽がある日突然消えてしまったのだ
「お日様の雑巾」で使っている洗剤は全て陽が作ったものだ
どんな汚れも分子にまで分解して落としてしまう洗剤
どんな酷い錆びも細かい粉末状にしてしまう洗剤
どんなシミでも、どんな表面からも、浮き上がらせてしまう洗剤
他にも沢山の薬品を陽は次々に開発してくれて、それで日向子の仕事が
ここまで繁盛しているのだ
陽失踪後は陽のパートナーだった篠田が研究開発を続けてくれている

「しのさんさぁ」
「はい」
「おにいちゃん、何してた?」
「何してたって?」
「居なくなっちゃう前、何してた?」
「研究してましたよ」
「何か、新しいもの見つけたとか?」
篠田はすぐには答えず手の中の缶を見つめる
「どうして、そう思うんですか」
「なんとなく・・・」
「なんとなく・・・?」
「おにいちゃん、はっきりは教えてくれなかったけど
ちょうど半年くらい前になんかおっきな会社がおにいちゃんの
研究に関心示してて、研究費用出してくれるかもって言ってたの」
篠田は何も言わずただ日向子を見ている
「その時はあんまり気にしなかったんだけど・・・」
「その時気にならなかったんなら、今気にしなくてもいいですよ」
「しのさんって、時々すごくわけわかんなくなるね」
日向子はふっと笑ってビールを飲み干した
篠田も最後の一口を飲み干すと、立ち上がった
「ごちそうさま」
「あ、うん」
「あぁ、そうだ、ひなさん、明日からアシスタントが来るんですけど
いいですか?」
「アシスタント?あ、うん、ここの事は」日向子は小屋の方向に手を振る
「しのさんにお任せだから」
篠田はこくっと頷くと、じゃあ、と背を向けて歩き出した
「おやすみなさい」
電灯の光の輪の外に消えていく白衣の背中に向けて日向子は手を振った
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門を出て100メートルほど歩いてから篠田は携帯を取り出した
「・・・もしもし?番子ちゃん?明日から来てもらうから・・・
「うん・・・犬?犬は・・・どうだろう・・・
「大丈夫だと思うよ、庭掘ったりしなければ・・・
「うん、じゃあ明日」
携帯を白衣のポケットに落として篠田は歩き続けた



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